追悼文10 櫻井先生の印象  ローマ字ひろめ会
小原喜三郎
ROMAJI Dai 3 Go XXXW no Maki
<昭和14年>  
   

櫻井先生は わたくしと同様 金沢市出身で 同郷人の先輩でありましたが、なにぶん わたくしとは二十才以上もの最大先輩であって、わたくしが まだ あかんぼうのころの明治十八年には、もうすでにローマ字つづりかたのいづれがいいかについては 充分に御研究ずみであったのであります。にもかかわらず わたくしごときあお二才がローマ字つづりかたが どうのこうのと こなまいきなことをいって 先生と したしくおはなしをするようになったのは いまから十二三年前からのことであります。

先生は あまりおおくおはなしにはなりませんでしたが、御意見の御発表は いつでもはっきりしていた。また 小さいことにも よくお気がおつきになったことはいまでも わたくしに もっともふかい印象を留めています。ことに いつでも『正しければ おそれなし』という立派な御態度には 尊敬の念をささげざるをえなかったのであります。と同時に宣伝ということは あまりお好きではなかった。とかく宣伝ということには いつでも なかみ以上になにか景物があるからであったからでしょう。

先生は 終始一貫 あの徹にして しかも穏健なる御態度を持続せられ だれがなんと言おうと、ときが はかにながれようと 不滅の理由にたたされ 不動の信念をまもられたのでありまして、おんうつしみなき今後といえども その御人格は永久に 凛として御生存あらせられることをわたくしは確信するものであります。 つつしみて深甚なる弔意をささげます。                                             <仮名遣いは原文のまま>

追  悼  文
  1    大幸勇吉   2     柴田雄次   3      片山正夫   4     市河晴子
  5     阪谷芳郎   6  Yamaguchi Einosuke   7     桜根孝之進   8   佐佐木信綱
  9   Mizuno Yoshu   10    小原喜三郎  11     宮崎静二  12    奥中孝三
 13     大西雅雄  14     大幸勇吉(2)  15      柴田雄次(2)  16     鮫島実三郎